みなさまこんにちは。馬場です。
前回の続きをやっていきたいと思います。
今回ご紹介する指し方ですが、ちょっと私自身もまだ手探りで指している状態の作戦ではあります。まだまだ洗練されたものとは言い難いかもしれませんが、現代将棋のエッセンスが詰まった指し方ではあると思いますので、私自身の思考の整理という意味もかねて、この機会にご紹介させていただきたいと思います。
それでは早速始めていきましょう。
前回同様、先手目線でお話しさせていただきます。
まずは普通の嬉野流のオープニングから始まります。
ここでまず一つ目のポイントですが、右銀を▲38銀とまっすぐ上がります。
前回はこれを▲48銀として、それから矢倉に組んでいました。確かに矢倉に組むのなら基本的には銀は48に上がるのが正しいです。ですが前回少し触れましたように、今回はスピード重視の駒組みを目指していきます。この▲38銀と上がる形は現代の相居飛車では基本となる形で、場合によってはあとは▲58玉と上がるだけで囲いはとりあえず完成して、早い戦いに備えている意味があります。
ちなみにですが、▲38銀に代えて▲24歩とすれば後手の角頭が危なそうに見えますが、△同歩▲同飛△32金であまり大したことはありません。
以下▲23歩と打っても△31角でもう一押しがないですね。逆に次に△23歩と打たれますと先手は飛車をどこかに引かなければなりません。ここで飛車の引く位置を決めさせられるのは先手にとってちょっと損なのですが、これは後で出てくるのでその時にお話ししましょう。とりあえず今はすぐに飛車先の交換はしない、ということだけ覚えておいてください。
さて▲38銀の局面に戻りましょう。
ここから△32金▲78金△84歩▲36歩△85歩と進めます。
ここで2つ目のポイント。△85歩と突かれてつい▲77角と飛車先を受けてしまいそうですが、ここで▲77角とは上がらずに、▲37桂と跳ねて攻撃態勢を整えます。
もちろんこれにもちゃんとした理由がありましてそれが結構大事だったりするのですが、ちょっと長くなってしまうので、これについては別で補足の記事を書こうと思います。ご興味のある方はそちらを参照していただくとして、ここでは先を急ぐことにします。
さて▲37桂の局面。
ここから後手は△31角として、先手は▲24歩△同歩▲同飛と飛車先の歩を交換します。対して△23歩と受けられたときに、ダイレクトに▲29飛と下まで引くことができます。
これが先ほど言っていた飛車先をすぐに交換しなかった理由ですね。このように飛車先の歩交換のタイミングを遅らせることによって後から好きな位置に飛車を構える、というのは現代の相居飛車で非常によく出てくる指し方ですので、ぜひ取り入れていただければと思います。このあと▲58玉~▲48金のようにすれば飛車の横利きがスッと通って非常に好形になります。
さて▲29飛以下、△62銀上▲58玉と進みます。
ここからは後手の指し手も広いのですが、
①△64銀
②△44銀
と銀をどちらに上がるかによって大きく2つに分けることができますので、それぞれの形のポイントを押さえていきたいと思います。
①△64銀の場合
この形の後手は△74歩~△75歩のように攻めてくる手を狙っていますが、すぐ攻められるわけではないので、やはり先ほど述べた▲48金の一手を先手としては指しておきたいところです。
対して後手は狙い通り△74歩と突いてきますが、そこで▲35歩がこの形のポイントとなる一手です。
これは次に角の利きを生かして▲34歩と突く手を狙っています。後手の角が22にいない弱点を突いています。ここで△75歩なら構わず▲34歩として、明らかに先手の攻めの方が早いですね。仕方がないので後手は△55歩と突いて先手の角道を遮断してきますが、この△55歩を突かせたことが先手にとって重要です。
この55の歩は64の銀によってのみ支えられていますから、当然64の銀が動けば先手は▲55角と取ることができます。したがって、後手は△75歩▲同歩△同銀のように銀を動かす攻めができなくなっているのです。先手は守りの手をほとんど指していませんが、それにもかかわらず後手の攻めを止めることができました。
このあと先手は、▲68銀~▲66歩のように後手の△64銀をさらに負担にさせるようにじっくり指していくか、あるいはAIは▲27銀~▲36銀のように繰り出していく手も候補手に挙げています。いずれにしましても、先手は嬉野流の出足を止めて自分のペースで戦うことができそうですから、この序盤戦は満足の展開と言えそうです。
ここで前回の形を思い返してみましょう。
先手はひたすら囲いに手をかけていましたから、攻めの態勢が全く整っていません。もう2~3手かけてもまだ後手陣にアタックする形は見えてこないですね。これでは先攻されるのも当然です。
それと比較して、今回の形。
この形ではもう次に▲34歩と後手陣にアタックする形が見えていますから、先ほどの図面と見比べていただければいかに先手がスピーディーな駒組みをしているかがおわかりいただけると思います。
このように相手よりも早く攻めの態勢を作ることによって、相手を守りに入らせる(この場合だと△55歩のような手を指させる)、そうすることで戦いの主導権を握る、というのがスピード感あふれる現代将棋の戦い方になるわけですね。
②△44銀の場合
今度は44に銀を上がってこられた場合です。自分が指した感じだと、後手は△64銀よりも△44銀と指してくることの方が多い印象です。それだけ嬉野流側にとって、▲35歩と突かれるのが気になるのだと思います。
さてこの場合には、「歩越し銀には歩で対抗」の格言通り▲46歩と突くのが味の良い一着になります。▲45歩と銀を追い払う手を見せつつ、▲47銀から陣形を発展させていく手も見ています。
ここで後手は△86歩▲同歩△同角のように一歩交換してくる手も考えられます。こうして飛車先の歩を角で交換することによって手順に△64角と好位置に据えるために後手は今まで△86歩とするのを保留していた意味があるのですが、この場合はすぐさま▲45歩と突いて早くも先手が指せる形です。
△53銀引と引いているようでは後手は何をやっているのかわかりませんが、といって△55銀と無理やり上に出ようとしますと、▲24歩と打つ手があってこれは技ありです。
△同歩と取るしかありませんが、▲同飛できれいに十字飛車です。この▲24歩と合わせて54の歩を取りに行く筋は対嬉野流ではしょっちゅう出てきますので、ぜひ覚えておいてください。
戻って▲45歩の瞬間に△87歩と打ってくるような手も考えられるのですが、▲77角と逃げておいても▲同金と取っておいてもよいですし、ちょっと指しにくいですが▲44角!とむしり取ってしまう手も成立するようです。
以下△同歩▲同歩となると後手は歩切れのため▲43歩成~▲23飛成の狙いが非常に受けづらくなっています。まあこんな派手な手を指す必要は全くないのですが一応ご参考までに・・・。
というわけで▲46歩の局面まで戻ります。
見てきたように先手から▲45歩の狙いがあるのですが、後手はそれを防ぐことができません。ですのでこの局面はすでに後手が若干困っているのではないかと個人的には思っています。
53に銀を戻らされるのがシャクだということで△34歩と指されたこともありますが(▲45歩には△33銀)、先手は▲45歩を含みに▲48金~▲47銀~▲68銀のようにじわじわ駒を押し上げていけばよいでしょう。第一その展開は、嬉野流のセールスポイントである出足の速い攻めはどこへやらといった感じで、後手は何をやっているのかよくわからないでしょう。
ただしこの△44銀型は、先後が入れ替わると事情がやや変わってきたりもします。そのあたりのことも含めてまだまだ解説しきれていないことがありますので、次回それらのことを補足として解説させていただいて、嬉野流の解説は一区切りとさせていただこうと思います。
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