みなさまこんにちは。馬場です。前回の続きです。
前回は、時代によって同じ局面でも見方が変わってくるというお話から出発して、平成の将棋観について説明しました。
平成の時代はとにかく「堅さ」が重視されていたので、△53銀型の三間飛車に対しては67の歩を動かさずに低く堅く構えられる▲66銀型が好まれていた、というところまでお話しいたしました。
今回は、どうしてそこまで「堅さ」が重視されていたのか、というところからお話していくわけですが、その理由は実に単純明快で、将棋は自分の王様を詰まされたら負けのゲームだからです。
王様を詰まされたら負けなわけですから、逆に言えば、「玉が堅い」=「王様を詰まされにくい」=「負けにくい」=「勝ちやすい」という理屈が成り立つわけです。今ではそれほど見ないですが、当時の書籍で「玉が堅いので勝ちやすい」というような文言を何度見たかわかりません。ガチガチの玉形が好まれていたのは、この「勝ちやすさ」を求めてのことだったんですね。
ところが、そうした考え方は「将棋AI」の登場によって変容を余儀なくされることとなっていきます。
プロ棋士と将棋ソフトが戦った「電王戦」なるイベントが開催されたのも今は昔、といったところですが、当時結構話題になったのが、AIが指す角道を止める普通の振り飛車が、異常なほど手強いことでした。
当時は角道を止める普通の振り飛車はプロ棋戦ではほとんど絶滅状態でした。やはり人間同士の戦いではお互いにミスが出ると、どうしても玉の堅い居飛車穴熊側に軍配が上がりやすかったのですが、AIはなかなかミスをしません。一度形成を損ねてしまうと、いくら玉が堅くても逆転させてくれません。こうしてAIの登場によって、「玉が堅ければ最後は勝つ」という考え方は、「玉が堅くても正確に指されると勝てないものは勝てない」、「ひたすら玉を堅くするというのは逆転狙いの思想」といったようなややネガティブな考え方へと徐々に変わっていくようになりました。
長々とお話してきましたが、ここでようやく前回の冒頭の局面に戻ります。
以前はここで▲57銀~▲66銀のように組んでいくのが常識だったのですが、そのようにガチガチの穴熊に組みにいく思想がやや疑問視されるようになってきたわけです。もちろん▲66銀型は今でも有力な指し方ではあるのですが、何の疑問も持たれずに当たり前だった頃に比べると、1つの選択肢に過ぎない、ぐらいの感じになっている印象です。
前置きが長かったですがここからが本題です。上の図から私は▲98香と指したわけですが、これはガチガチの穴熊に組もうというよりも、むしろ▲66歩と突いてバランスを取ろうとしている意味があります。
▲57銀と上がってからでも▲66歩と突けるじゃないか、と思われるかもしれませんが、▲57銀と上がらないのにも理由があります。私の実戦の通りに進めてみます。
長いので手順は割愛しますが、私はネット将棋でこの局面を何回も経験していますので、双方が普通に指せばこうなるといった感じでしょうか。後手は今話題の振り飛車ミレニアムですね。対して先手は先程も述べました通り、ひたすら堅めるのではなくて▲66歩と突いてバランスを取る指し方です。
ここで▲57銀を保留した効果が現れます。もし▲57銀と上がっていたら、△65歩と突く手が生じます。
▲同歩ならもちろん△同桂で両取りですので、この歩は取れません。△65歩と突かれたからといって別に居飛車が悪くなるわけではないのですが、取れないということは後手は6筋の位を確保して△64銀型に組むことができるということです。△64銀型は後手の理想形の一つではありますので、阻止できるならしたい、というのが銀を48のまま保留する意味です。
実戦は▲36歩の局面から、△45歩▲37桂△42飛▲68角と進行しました。
この局面が一つのテーマ図で、居飛車側としては▲37桂と自然に活用できていることと、△64銀型に組ませていないことが主張になります。
一例として上の図から△55歩▲同歩△44銀のように仕掛けられたことがありますが、これには▲54歩△同金▲75歩のように反撃して早くも居飛車良しです。
こうした攻めが利くのも▲66歩と突いてバランスを取る指し方をしているからこそで、後手の銀が64でいばっていたらこのような筋はあり得ませんでした。ひたすらガチガチに堅めるのではなく、相手の理想形に組ませないようにバランスを取った効果がこういうところに出てくるのですね。
実戦は▲68角以下、△62銀引▲16歩△14歩▲57銀△41飛▲29飛
△84歩▲46歩△同歩▲同銀△65歩▲55歩と進みました。
長手数進めましたが▲57銀~▲46歩がこの形の基本となる仕掛けです。途中で▲29飛と何気なく手待ちをしたのにも一応意味がありまして、これをせずに▲46歩と仕掛けると、最後の▲55歩を△同角!と取ってくる手があります。
これもこの形ではよく出てくる手で、以下▲同銀△49飛成▲46銀△19竜▲48飛△66歩▲同金△64香のように先手先手で攻められてしまいます。
これも居飛車がダメというわけではないのですが、やはりガンガン攻められる展開は気になりますので、こうした筋を警戒したのが▲29飛というわけですね。
こうして迎えた▲55歩の局面。
この局面はもちろんまだ互角なのですが、穴熊に囲った上で無理なく仕掛けることに成功しているので、居飛車をもって不満ないかなと個人的には思っています(一応評価値的にはだいたい+200~250ぐらい)。
というわけで長々と解説して参りましたが、こういう指し方もあるということでご紹介させていただきました。みなさまの戦法のレパートリーの一つに加えていただければ幸いです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!
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