みなさまこんにちは。馬場です。
今回は、嬉野流の対策について解説していきたいと思います。
嬉野流と言えばつい最近升田幸三賞を受賞した戦法ですね。以前からアマチュア間ではちょくちょく見かける戦法でしたが、話題になったことでこれから指す人が増えてくるかもしれませんので、しっかり対策しておきましょう。
解説は今回から2回に分けて行っていきます。初回となる本稿では、まずは特に対策を凝らさずにごく普通に指したらどうなるのかを見ていきたいと思います。「嬉野流対策」のタイトルに反しているような内容になりますが、そもそも相手の戦法の狙いがわからなければ対策のしようもありません。ですのでまずは嬉野流側の成功例をご覧いただいて、嬉野流に対してはこういった戦いに持ち込まれたらまずい、というイメージを持つ機会にしていただければと思います。
解説は、便宜上後手番が嬉野流側で、先手番目線で行っていくことにします。
それでは始めていきましょう。
嬉野流と言えば、初手▲76歩に対して△42銀と上がるのが主眼の一手となります。
角道を開けずにいきなり力戦調の様相ですね。先程も述べましたように、まずは先手は特に趣向を凝らさずに普通に組んでみて、後手の狙いを見ていくことにしましょう。
ちょっと進めてみます。
右銀ではなく左銀を△53銀から繰り出して攻めを狙ってくるのが嬉野流の特徴です。対して先手は▲77銀から矢倉に組んでみましょう。
さらに進めます。
△31角と引き角にして使うのも嬉野流の骨子となる一手です。対して先手は平凡に▲67金右と着々と矢倉囲いを完成させていきます。
さらにもう少し進めてみます。
後手は二枚の銀をぐいぐい繰り出してきました。こうして見るとかなり対照的な陣形が出来上がりました。先手が指し手のほとんどを囲いに費やしているのに対して、後手は囲いもそこそこに攻める気満々の構えです。
先手はさらに囲いを進めるために、上の図から▲24歩△同歩▲同角△23歩▲68角とします。地味ですが先手がここまで飛車先の交換を保留していたことで、一歩交換しながら角を移動できました。対して後手は早速△75歩と仕掛けてきます。
先手はここでも無難に指してみます。上の図から▲75同歩△同銀▲76歩として、以下△86歩▲同歩△同銀から角銀交換になったとしましょう。
さてこの局面、有段者の方でもこういった局面になってから先手を持ってさあどうしよう、と考慮に沈む方をちらほら見かけることがあります。心当たりのある方にはぜひ覚えておいていただきたいのですが、この局面はすでに先手がダメです。
そもそも一般的に攻めの銀(△64銀)と守りの銀(▲77銀)の交換は攻め側が有利とされているのですが、さらにこの場合は、後手から次に△49角と打つ手が猛烈に厳しいです。
△67角成~△87飛成と△27銀の両狙いが受かりませんね。これを喫してしまっては一巻の終わりなのですが、△49角を防ぐぴったりした手がありません。これでは先手失敗です。
もう一度失敗図を見てみましょう。
この局面は対嬉野流の中でも最悪と言える局面です。先手は囲いに手をかけてきましたが、そのせいで駒がうわずってしまい、△49角の隙ができてしまっています。対して後手は囲いにほとんど手をかけていませんが、かえって低い陣形を維持できていて隙が見当たりません。これが嬉野流の狙いだったわけですね。
見てきたように、しっかり囲って受けようとすると嬉野流側の術中にはまりやすく、あまりおすすめできません。そこで次回は、このような展開にならないような作戦を一つご紹介したいと思います。
〈補足〉
上に示したのはあくまで講座用の手順ですので、ちゃんとやれば矢倉でも嬉野流に対抗することは可能です。
いろいろ工夫の余地はありますが、例えば△75歩と仕掛けられた局面。
先程はこれを▲75同歩と取ったのでさばかれてしまいましたが、これを取らずに▲57銀や▲79玉などとしておけば、まだまだこれからの将棋です。
この局面、評価値だけで言えば、巷で有力とされているような対策とそう変わらないか、むしろこちらの方が数字上は高いかもしれません(上の図でだいたい先手の+150~200点ぐらい)。
にもかかわらず、このような指し方が有力な対策として紹介されることはまずないと思います。理由はいくつかあると思いますが、一つには、このような指し方は考え方がやや古い、というのはあるかもしれません。どのへんが古いかと言いますと、金銀を盛り上げて相手の攻めを受けようとしている点です。
以前でしたら、相手が速攻を見せてきたら金銀の厚みでしっかり受ける、というのはごく普通の発想でした。ですがAIでの研究が当たり前になってきたころから、こうした指し方はどんどん下火になっていった感があります。
例えばこんな将棋。
これもAIでの研究が盛んになってから指されるようになった将棋なのですが、以前ならこの仕掛けは先手がなんとかなる、という感覚が普通だったと思います。ですがだんだん先手が容易でない、むしろ後手やれるという風に認識が変わっていきました。このように金銀の厚みで受けようとしても受けきれず、盛り上がった分かえって争点になってしまって危険なので、こういった指し方は現代では避けられるようになりました。
今は速攻にはそれを上回るスピードで対抗する時代ですので、次回は嬉野流のスピードに負けない現代調の対策をご紹介したいと思います。
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