みなさんこんにちは。馬場です。
前回からの続きをやっていきましょう。今回がこのお話の最終回となります。
前回は、生徒の実戦を見ていただきました。↓これですね。
定跡とほぼ同じように進めてこの△3七銀がみごとに決まったかのように見えましたが、実際は先手にうまく対応されて失敗に終わってしまいました。
今回はこの将棋のどこが後手は悪かったのかを振り返っていき、この角換わり早繰り銀の定跡のポイントを整理するところから始めていきましょう。
この生徒の実戦から学べるポイントは、大きく2つあります。
1.△4二玉と上がるのは、「腰掛け銀の合図」を見届けてから!
生徒の実戦で後手が悪くなってしまった最大の原因は、後手の玉が4二にいたことにあります。
前回の解説を思い出していただきたいのですが、後手玉が4二にいたせいで、途中の先手からの▲3二馬という手が王手になってしまったのです。
しかし定跡の形だと後手の玉は5一にいますので、同じように進めても▲3二馬は王手になりません。
これは△2八とと飛車を取っておけばむしろ後手優勢です。
王様の位置がたった一つ違っただけですが、これだけの差で形勢がひっくり返ってしまうのが将棋の恐ろしさです。
この生徒の実戦ではかなり具体的に△4二玉がたたってしまいましたが、そうでなくとも、早繰り銀に対して△4二玉と上がってしまうと先手の右側からの攻めに近づいてしまうので、あまりいい指し方とは言えません。
あるいはみなさんよくご存じの角換わり棒銀の定跡でも、後手は△4二玉と上がらずに居玉のままで待機していますよね。
これも、後手はなんとなくそうしているのではなくて、先手の棒銀の攻めに王様が近づかないようにしている、というちゃんとした意味があってやっているのです。
まとめると、先手が早繰り銀や棒銀をしてくる可能性がある間は、後手は△4二玉とは上がらない方が良い、ということになります。
もっと具体的に言えば、先手が▲4六歩や▲3七桂といったような「腰掛け銀の合図」となる手を指してきたら、後手は△4二玉と上がっても大丈夫、ということになります。
生徒の実戦では、この局面でもう△4二玉と上がってしまったようでした。おそらく、先手の講師はこの早い玉上がりを見て早繰り銀にしたのだと思います。
上の局面のように、まだ先手が早繰り銀なのか腰掛け銀なのかわからないような局面では、後手はそのどちらにも対応できるようにしておくべきです。なので△4二玉とは上がらずに、△7四歩や△6四歩と突いて様子を見ておいた方がいいです。
もしそこで先手が▲4六歩と突いてきたら、これが「腰掛け銀の合図」になります。
これなら先手は腰掛け銀に組むことがほとんど決まりましたので、この▲4六歩を見届けてからなら△4二玉と上がっても大丈夫というわけです。念のために言っておくと、別に▲4六歩や▲3七桂を見たら必ず△4二玉と指さないといけないわけではありません。大事なのは、こうした「腰掛け銀の合図」を見るまでは△4二玉とは上がらない方が良い、ということです。
2.△5五角と打てるチャンスは一瞬だけ!
生徒の実戦では現れませんでしたが、この講座の初回や定跡書の手順を注意深く見てみると、途中で△5五角という手が登場するのがわかるかと思います。
ここから▲4六角と合わせて△同角▲同歩と進むのが定跡の進行ですが、すると△5五角と打つ前の局面と比べて、先手の4七の歩が4六に一つ進んだ格好になります。
後手は角を打つことであえて先手の歩を前に進ませたわけですが、これには実は重要な意味があります。まずはこれについて説明しましょう。
再び生徒の実戦の局面に戻ってみましょう。
実戦はここでさっぱり▲3七同桂と取ってしまって先手は一直線に勝ちを目指していきましたが、実はこの局面、▲6八飛と飛車を逃げられても後手は困っています。
タダの銀を取らないというのもすごい手ですが、次こそ▲3七桂があります。後手の銀は2六しか行くところがありません。
これでは明らかに銀がそっぽで、▲2一馬と取られておくぐらいでも後手が厳しい形勢です。
それでは、定跡の局面で同じように▲6八飛とするとどうなるでしょうか。
これには当然ながら、△4六銀成の活用が絶品です。
この銀の活用ができるのは、先手の歩が4六にいたからこそです。つまり、後手はここまで見越して途中で△5五角と打っていたわけです。恐ろしく深い定跡ですね。
△5五角の意味はこれでおわかりいただけたかと思います。次はこの角を打つタイミングが重要になるのですが、この△5五角はいつでも打っていいわけではなく、定跡手順のタイミングただ一点でしか打つことができません。
例えば、定跡手順よりも前のタイミングで△5五角と打ったとしましょう。
そうすると、当然ながら先手は▲4六角ではなく▲4六銀とブロックすることができます。これは後手失敗です。
あるいは定跡手順よりも後、2四で銀交換が行われた後に△5五角と打ったらどうでしょう。
この場合も先手は持ち駒に銀がありますので、▲4六銀と打つことができます。角が逃げたら▲4五角のような攻めもありますし、これでは後手が狙っている△3七銀の局面に持ち込むことができません。
したがって先手に▲4六角と合わせてもらうためには、後手は▲2四同銀の瞬間、▲4六銀とはできないタイミングで△5五角と打たなければならないのです。
さて、ちょっと難しいお話が続いてしまいました。でも、定跡を勉強するというのは本当はこういうことなんです。
「実戦は生き物」という言葉があるぐらいですから、実戦では例えば今回ご紹介した生徒の将棋のように、定跡とはちょっと違う局面があらわれます。
そうした局面に出会ったときに、もし定跡手順を丸暗記しただけだったら、わけもわからず覚えた手順をなぞって指すしかありません。それがどういう結末をむかえるかは、前回見ていただいた通りです。
でも、定跡手順の指し手の意味であったり指し手の順番であったり、「なぜそう指すのか」をきちんと理解していれば、定跡とはちょっと違う局面を考えるヒントになります。
例えば、こんな局面に出会ったらどうでしょう。
これも、ここまでご紹介してきた定跡形とはほんのちょっと違う形になっています。
さてこの局面、はたして後手は、定跡手順をそのままなぞって△3七銀の局面にもっていけるでしょうか、それとも別の展開にもっていくことを考えなければならないでしょうか。
結論から言うと答えは後者なのですが、それは定跡手順を盤に並べていただければ必ずわかると思います。ぜひ考えてみてください(手順は第1回のところに書いてあります)。
今回お話ししたかったことは以上になります。定跡を勉強するときに、指し手の意味をきちんと理解するということの大切さが少しでも伝われば幸いです。
最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。
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