どうも、あらきっぺです。
今回の題材は、こちら。
【逆転の目を作る考え方】
— あらきっぺ (@burstlinker0828) January 11, 2024
こちらは玉型が薄く、次の☖57桂成も受けにくいので苦しい情勢です。平凡な手では逆転できません。そこで本譜は、☗95香と指しました。… pic.twitter.com/pxF66utI49
将棋を指していると、毎度毎度、自身が優勢になることはあり得ません。不利な状況をどのようにひっくり返すのか、ということも勝つためには必要な技術です。そこで今回は、どんなことを意識すれば逆転しやすい状況を作れるのか? ということをテーマにして、解説を行いたいと思います。
主張が無い展開を避ける
改めて、上記ツイートの始めの場面を振り返ってみましょう。下図は相手が☖4五桂と指し、攻め駒を活用したところです。
具体的な指し手を考える前に、まず現局面の状況を整理しておきましょう。
駒の損得は、[飛銀⇄金金]の交換なので、こちらが駒得です。ただ、局面は終盤戦に差し掛かっているので、あまり駒得が活きない側面はあります。
玉型は、後手の方が遥かに安全ですね。これは一目瞭然でしょう。
駒の効率は、こちらは2八の銀が負担です。また、5八の飛も目標にされており、効率が良いとは言えません。対して、相手は強いて言うなら5四の金の働きが弱い程度で、全体的には問題がありません。よって、効率は後手良しです。
まとめると、この局面は玉型と駒の効率の差が甚だしく、後手が優勢であると判断できます。ゆえに、先手はいかに逆転の目を作るかが命題ですね。
さて、次に相手は、☖5七桂成を狙っています。ここに成桂を作られると、自玉の危険度がさらに上がります。ゆえに、それを受けるのは自然と言えば自然です。
そうなると☗4九桂が一案ですが、これは☖4七金☗5九飛☖2八角成と着実に攻められる手が厄介。こうなると、先手は勝ち目がなくなります。
なぜ勝ち目が無いかと言うと、この進行では主張が無いからです。
この局面は、後手に駒損を回復されており、こちらは[玉型・駒の損得・駒の効率]の三要素で全て悪くなっています。こうした三要素の全てが悪いという状況が、主張が無い局面です。終盤戦でこの状況に陥ると、基本的には逆転は望めないと考えましょう。
これを踏まえると、先手はただ☖5七桂成だけを防げばよい、という事態ではないことが分かります。それよりも、後手がリードしている玉型や駒の効率の差を挽回したいですね。このように、不利な立場の場合は、相手の主張を崩すことを考えましょう。
そうした背景から、冒頭の局面で筆者は☗9五香と走りました。
これは香を捨てているので、こちらが唯一握っていた「駒得」という主張を手放しています。しかし、この手はそれと引き換えに、「玉型の差」を縮める狙いがあります。
後手は☖9五同香が妥当ですが、☗9四桂☖7一玉☗9二飛と反撃しましょう。最終手の☗9二飛が、こちらが期待している攻防手ですね。
次は☗8二桂成が狙いです。それが指せれば9二の飛の利きが後ろ側にも通って来るので、自玉を安全にする効果が期待できます。ここまで進むと、玉型の差を大いに縮めた印象を受けるのではないでしょうか?
なお、厳密には、ここで☖9六歩と強く攻め合いを挑めば、後手が優位を保っています。ただ、☖9六歩は香の利きを遮る攻め方なので、なかなか選びにくい攻め方ですね。
本譜は、ここから☖6二玉☗8二桂成☖9七香成☗同飛成☖9三歩と進みました。これは、攻防駒である9二の飛を強制的に撤退させ、自玉を安全にした意味があります。ただ、☖9三歩の局面は、こちらは大いに形勢の差を詰めることに成功しました。
上図を冒頭の局面と比較すると、駒の損得と効率に関しては、特に変化がありません。しかし、玉型に関しては、明確な違いがあります。冒頭の局面では全く手掛かりを作れていませんでしたが、上図では8二に成桂が存在しており、種駒を作ることに成功しています。加えて、9五の位が消えたことで、自玉が広くなったことも先手のアドバンテージですね。
上図では、☗3八飛で飛車を活用したり、☗8九玉と早逃げすれば、まだまだ先手も戦える将棋です。そして、こうした状況を作れた一番の功労者は、☗9五香と捨てた勝負手にあります。
このように、終盤で逆転を狙うためには、「主張が無い展開を避ける」「相手の主張を潰しに行く」といった行動を取ることが必要です。何か一つ主張があれば、それが頼りになりますし、相手の主張を潰しに行けば、形勢の好転が期待できます。苦戦をひっくり返すのは簡単なことではありませんが、必要以上に悲観せず、上記の事柄を心掛ける姿勢で指すと、良い判断ができることでしょう。
「ひとり終盤」を回避せよ
繰り返しになりますが、今回の題材では「主張が無い展開を避ける」「相手の主張を潰す」ことが重要な部分でした。ゆえに筆者は☗9五香から玉型の差を縮めに行ったのですが、この手を選んだ背景には、もう一つ別の理由もあったのです。
それは、「ひとり終盤を回避する」ことですね。
改めて、失敗例の変化を示します。これは主張が無いので勝ち目が無い訳ですが、それと同時に、自陣が自分だけ終盤戦のような状況にもなっています。こうした「ひとり終盤」になると、玉型の安全度が大差なので、攻め合いに持ち込むことが出来ません。そうなると相手は攻めに専念できる態勢になるので、考えることが少なくなり、ミスが出にくい将棋になります。つまり、逆転が狙えません。
逆に、こうして攻め合う状況になると、必然的に攻めと受けの両方を考える必要があります。そうなると、候補手の数も多くなるので、相手は選択肢が増え、ミスが出る確率が高まります。このように、不利な立場になった場合は、こうして「ひとり終盤」を回避することで局面を複雑化させることも大切です。
また、こうした終盤特有のノウハウは、拙著「終盤戦のストラテジー」にもふんだんに記載しております。よろしければ、こちらもご覧いただけますと幸いです。
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