寄せに向かうときに意識するべきこと③

どうも、あらきっぺです。

今回の題材は、こちら。

【攻め味を残した配置を維持せよ】

こちらは角で香を取ることが出来ますね。それを指しても形勢は悪くないですが、ここはそれ以上に☖89飛と打つほうが勝ります。… pic.twitter.com/9RI2OwWADi

— あらきっぺ (@burstlinker0828) March 19, 2025

将棋は終盤戦に入ると、基本的には敵玉の寄せに向かう段階に入ります。ただ、このとき寄せの準備の整え方がまずいと、攻めが渋滞して速度負けする懸念が生じます。しかし、寄せの準備を進めるテクニックを解説する教材は、あまり多くありません。

そこで今回は、寄せに向かうときの考え方をテーマにして、解説を進めたいと思います。

攻め味が残る配置を維持する

改めて、上記ツイートの始めの場面を振り返ってみましょう。下図は相手が☗８五飛成と指し、竜を作ったところです。

この局面は、こちらの玉型が堅く、かつ桂得で角の働きも大差です。ゆえに、形勢ははっきり優勢ですね。ただ、ここから☗８一竜→☗９一竜→☗３八香という順が間に合うと、かなり嫌らしい状況になるので、その前に寄せの準備を整える必要があります。

上図でこちらは攻め駒の数が少ないので、☖９九角成で香を補充するのは自然です。この場合、相手も☗８一竜で桂を拾ってくるでしょう。

これはこれで優位を維持していますが、ここで厳しい攻めを放てないことは、些か不満を感じるところではあります。この瞬間、こちらは馬が攻めに使えなくなっており、それが厳しい攻めを放てない要因です。

あの馬を攻めに使おうとすると、☖４四馬や☖６六馬など、一手の投資が必要になってきます。しかし、そうしたロスがあると、最終盤の競り合いで一手の遅れが響いてくる懸念を抱えます。ゆえに、上図は上手く立ち回っているとは言えません。

こうした背景があるので、冒頭の局面で筆者は、別のアプローチで寄せの準備を進めました。具体的には、☖８九飛と指します。これが最も敵玉に対して脅威を与える一着になります。

傍目には、ただ敵陣に飛車を設置しただけなので、☖９九角成とどういった違いがあるのか見えにくいかもしれません。ただ、ここで注目して頂きたいのは飛車を設置したことではなく、角を６六に留めていることに着目してほしいのです。

もし、上図から相手が先程と同時に、☗８一竜で桂を取ったとしましょう。その場合、こちらは☖３五桂という攻めを繰り出せます。これでいきなり寄せに向かえることが、角を６六に止めた恩恵なのです。

ここで☗４八金引には、☖２七桂不成が痛烈です。しかし、それを防ごうと☗３七金と寄れば、☖５七角成で金銀両取りが掛かりますね。つまり、角を６六に置き続けたことで、こちらは攻め筋が増えているのです。攻め駒を囲いのそっぽへ向かわせなかった効果が出ていますね。

こうした事情があるので、上図で相手は桂を拾うことが出来ません。また、☗６七歩で角を追えば先述の攻めには対処しやすくなりますが、これを指させてから香を拾えば、こちらは☖８九飛の一手が丸得できた勘定になります。ゆえに、相手は選べません。

上図では☗３八金と上がるのが最も耐久力のある粘りですが、これも不本意な一手を指させているので、こちらはポイントを稼いでいます。以降の攻め方は複数ありますが、☖８八飛成☗３九歩☖８七竜☗８一竜☖９九角成と進めるのは、非常に手堅い手順と言えます。

こうして３九に底歩を打たせてから香を拾えば、次の☖３三香が痛烈になりますね。また、☖８七竜と指しておけば、相手は８筋の大駒が二枚とも不自由になるので、攻めの手段が著しく減ります。上図は［玉型・駒の損得・駒の働き］の三要素で全てリードを奪っており、かつ自玉への攻め筋が全く無いので、優位を拡大することに成功しています。☗３四桂よりも☖３三香のほうが厳しいので、相手は全く手段がありません。

こうして一連の手順を見ると、こちらは６六の角を安易に動かさなかったことで、相当にポイントを稼げたことが読み取れます。

寄せの準備を進める際には、当然ながら敵の本丸を攻撃できる形を整えることが必要です。そして、その際には一つでも多く攻め筋が残る形をキープする意識が必要です。特に、攻め駒が敵玉のそっぽへ向かう手には注意が必要で、そうした手はたとえ駒が取れたとしても、価値の高い手とは言えないことが少なくありません。この辺りの感覚は中盤とは大いに異なるので、意識的に切り替えていくことが肝要です。

厳しい狙いがある状況で駒を取れ

繰り返しになりますが、今回の題材では一つでも多く攻め筋が残る形をキープすることが話の肝でした。ゆえに筆者は香を取らずに☖８九飛と指したのですが、この手を選んだ背景には、別の理由もあったのです。

それは、「厳しい狙いがある状況で駒を取りたかったから」ですね。

改めて、失敗例の変化を提示します。先述したように、この進行でも悪くはないのですが、こちらは香を拾っても直ちに厳しい攻めはありません。無論、☖２四香と設置する手は効果的ですが、この手は次に☖８九飛や☖３五桂を指して、始めて本領を発揮する手とも言えます。つまり、一手溜めないといけないので、次に厳しい狙いがあるとは言えないのです。

逆に、成功例で９九の香を取った局面は、次に☖３三香という厳しい狙いがあります。こうした攻めが残ってれば、相手はそれに備えた手が必要になってくるので「駒を取る」手が緩手になりませんね。

基本的に終盤はスピードが求められるので、駒を補充しても敵に手番を渡すようでは、一手の価値が高いとは言えません。しかし、駒を取る手に厳しい狙いがあるなら、それは手番を渡さないので価値の高い手に化けます。こうしたことを意識して寄せの準備を進めると、競り合いを制すことに繋がるのではないかと思います。

また、寄せに向かうときに意識すべきことは、他にもあります。よろしければ、以下の記事も併せてご覧いただけますと幸いです。